◆ おそろい ◆
※リョウルートED後
「――おまえ、人の髪で何やってんだよ……」
ふと気が付くと、なんか髪の毛をいじられてた。
オレがゲームをしている傍で、リョウはてっきりスマホいじってるかと思ってたのに。
「いやー、ヒマだったから」
「はあ?」
もたれていたベッドを振り返ると、リョウはなんだか満足そうにニコニコしている。
自分の手で自分の後頭部を触ってみる。もしかして……ゴムでくくってる?
「うん、かわいいかわいい」
「なっ、」
意味がわからん。
「髪くくっただけでかわいくなるかッ」
「いーじゃん、オレとおそろいってことで。ついでにピンもつけてやるよ」
「いらねぇよ!」
「あっ何とろうとしてんだよ、そんなにイヤか?」
「おまえとおそろいなのがイヤだ」
「ちょっ、ひどいな!?」
おそろいとか、ほんとよくそんな恥ずかしいこと言えるな、こいつ……。
ゴムを取ろうとするオレの手をリョウが素早く掴んだ。
「イッ、」
痛い。それが意外と強い力でとっさに抵抗できなくて、オレは勢いのままベッドの上にひっぱり上げられてしまった。
「ってぇな……!」
降参、みたいに両手を拘束された状態で、リョウを見上げる羽目になった。
いつも1人分の体重しか乗せてないオレのベッドに2人いるから、軋む音が大きい。
ドキッとして思わず固まってしまう。つーかこの体勢、屈辱的すぎる……
にらみつけると、リョウはオレを見下ろしてにやりと笑みを浮かべた。
「取らないって言うなら放してやるよ?」
「はあ? 何だよそれ」
どんな交換条件だよ。そんなにオレの髪をくくりたい意味がわからない。こいつたまによく分からないことをしてくるんだよな。
うんざりと見上げる視線の先で、うつむいたリョウの長い前髪がさらりと流れるのが見えた。染めてるのに、きれいな髪だ。その手触りが意外と心地良いことはもう知ってる。
コク、と息をのんで、ごまかすように声を出した。
「ていうかおまえ、髪切らねぇの?」
「ん?」
「くくるくらいだったら切ればいいじゃん」
「……カナデは、短い方が好き?」
「え?」
不意にリョウの静かな声が落ちてくる。オレは首をかしげた。
「んなの、オレに聞いても仕方ねぇだろ? そういうのは自分が気に入るかどうかで……」
「んん~そうじゃなくてさぁ……」
リョウはガクリと頭を垂れた。
あ、なんか日本語通じないヤツ扱いされてる気がする。
でも、だってそうだろ? 自分が気に入らない髪型なら嫌だろうし……
オレの両手を掴んだまま、リョウは額の距離を少し縮めてきた。
リョウの髪がオレの頬をかすめる。そして視線を離さずに、よどみない声でリョウが言った。
「もっとオレに関心を持ってほしいんだけど」
「……は?」
何言ってんだこいつ。
「何言ってんだこいつ、って思っただろ……」
「! 心を読むなよ」
「顔に出てんだよ」
「うっ……」
関心、関心ってなんだ……?
「オレはカナデの一つ一つに振り回されてんだけど?」
言われて考えをめぐらせると、確かにリョウは「こんなことで?」って思うようなことで笑ったり喜んだりする。前はからかわれてるだけかと思ってたけど、そうでもないみたいだし。
しかもそういうの全部、オレの前でだけな気がするんだよな。
それって、リョウがオレに関心を持ってるってことか?
でもさ、それ言うならオレの方がどれだけ振り回されてるかって話だよ。
昨日だって、学校で急に手繋いできたりとか、ちょっとした隙見つけては触ってくるし……学校ではやめろって言ったオレに、『じゃあ家で思う存分触らせて』ってリョウが言ったのは昨日のことだ。
思う存分……あれ、もしかして今日やばいんじゃ……? のんきに家に招いてる場合じゃなかった……?
「あ、何逃げようとしてんだよ」
どうにかリョウの下から逃げようともぞもぞ抵抗してみるけど、上からこうも体重乗せられてちゃやっぱり動けない。ベッドがきしんで、妙にはずかしくなるだけだった。
「つーかカナデ、顔赤いけど、何思い出してた?」
「っ、べつに……!」
ふ、と耳元で笑われて、オレは隠すように顔をそらした。
「あーあ、取れちゃったじゃん、ゴム」
リョウの残念そうな声が聞こえた。
そういえば、後頭部にさっきまであった固い感触がなくなってる。
「カナデが暴れるからー」
「なっ、オレのせいかよ!」
下敷きにしたおまえが悪いんだろ!
「取らないって言うなら放してやる、って言ってたけど、取れちゃったからには仕方ないなー?」
やけにうれしそうにリョウが笑った。
ん、それってもしかして……
嫌な予感がしながら身構えていると、リョウは清々しく宣言した。
「取ったからには、もう放さない」
やっぱりか―――!
こじつけみたいなことを言ってリョウが唇を重ねてきた。
マジで、絶対振り回されてるのこっちの方だと思うんだけどな?!
ていうか関心持つも何も、なんとも思ってなかったらこんなの許すわけないだろ。オレのことよく見てんだったらそれくらい気付けよ。
……なんて、言ってやろうと思っていたけど、しばらくそんな余裕すら与えられなかった―――
***おわり***